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Raj_011

 陸地のガンジス河とも形容できそうな壮大な砂の海が、なだらかな曲線を描いてどこまでも続いている。砂漠と一言で言ってもその表情は様々で、ブッシュが生い茂っている地域、鉱山や岩場に囲まれた地域、小石と土の堅い大地だったりと、こんな砂の海のような美しい風景がどこでも観られるというわけではないのだ。世界的に環境破壊が深刻な問題となっている昨今、緑が激減し砂漠化が進み、人々特に少数民族の生存が脅されてきている。そんな砂漠を「美しい」と簡単に形容するのも少々気が引けるが、大自然の営みを目の前にすると、ただ自分の無力さや儚さを切々と感じるのは事実である。
 適当な撮影ポイントを選び、撮影機材の入ったリュックを持参したビニール風呂敷の上に下ろして、機材のセッティングを始める。ちょっとした風が吹くだけでも、マスキングを施した機材にすら細かな砂の粒が入り込んでしまう。こんな状況を予想して予め準備した風呂敷だったが、セッティング中に砂塵を防護するのに大いに役立ってくれた。

 演奏楽器は、ジョーギーやカルベリアが蛇遣いに用いる典型的な吹奏楽器プーンギー(ビーン)Pungi (Been, Bin) と、打楽器カンザリ Khanzari (Khanjari) だ。
 プーンギーはふくらんだ瓢箪(もしくはココナッツの実)に竹製の二本のシングルリードが取り付けられた吹奏楽器であり、鼻から息を吸いながら口の中に貯えた空気で笛を吹き、その空気がなくなる前に肺から息を出し、笛の中に吹くと同時に口の中に貯え、これを間断なく繰り返して常に同じ強さで笛を吹くといったサーキュラー・ブリージング(循環呼吸)を用いる。楽器職人モーハンが演奏してくれたアルゴザは、構造的にはプーンギーの二本のリードが分離されたものと考えてもよいだろう。ここ近年の動物保護団体の要求により、ジョーギーのコブラの飼育も制限されてきており、街中で観られる彼らの蛇遣いのパフォーマンスもだんだんと減少の傾向があるようだ。(プーンギーのさらなる詳細については、本ブログの過去記事「私説ロマ:マンガニヤールの使用楽器」の脚注2をご参照いただきたい)。
 カンザリは円形の木製のフレームの片側に山羊の革を張った打楽器で、タンバリンのようにフレームの周りの小さなシンバルでリズムがより強調される片面打楽器である。シンバルがついていないバリエーションをダファリ Dafari と呼ぶ。ジョーギーやカルベリアの演奏者はこの打楽楽器をダフ Daf と呼んでいたが、現地の民族資料館で調べたところ、ダフは直径が二フィート以上とタンバリンを二回りも大きくした打楽器であることから、本連載ではより相応しいと思える「カンザリ」表記に統一したい。ちなみにガイドブックのLonely Planet Rajasthan(英語版)でも同じくカンザリ表記にしているようだ。(※なお映像作品『ザ・ラジャスタン~砂漠の表現者たち』のエンドクレジットでは「ダフ」表記のママ)。


Raj_011+

 今回もこちらの楽曲リクエストでセッションが進行していく。まずはカリヨー Kalyo Kud Padyo Mela Me。ジョーギーやカルベリアの舞踊曲として定番だが、♪エレレレ・エレレレ・エ~♪というキメのフレーズが印象的な歌もコミカルで楽しい(両方とも映像作品『ザ・ラジャスタン~砂漠の表現者たち』に収録)。軽快なプーンギーの音色と弾むようなカンザリのリズムに合わせて、女性たちがジョーギーダンスを踊る。ジョーギーダンスはカルベリアダンスほど歴史があるわけでもないようで、観光客のための余興として踊っているそうだ。踊りも緩やかな旋回を基調とするラジャスタン地方の民俗舞踊グーマーに倣った感じで、未完成で脱力系の踊りという印象を受けたが、自由奔放なジョーギーが踊ると却ってそれがとても魅力的に思えてしまう。派手な色彩のロングスカートが独楽のようにクルクルと砂漠に舞う様は、乾いた大地に凛々と咲いた生命力溢れる美しい花を連想させられる。
 そして歌を数曲歌ってもらった。彼女たちの歌声もカノイ村のマンガニヤールと同様、力強く張りのある艶やかな歌声だった。定住化しているアーティストに比べ、放浪生活のアーティストの方が表現力が豊かで質が高いという見解もあるようだが、まさにそれがよく分かるセッションだった。放浪生活者の心の余裕や豊かさすら感じさせられる歌声でもあった。彼女たちが財産として身につけているイヤリングやネックレス、バングル(腕輪)や指輪、そして衣装に施されたカラフルな刺繍をじっくりと撮影していると、ここは本当に現実の世界なのだろうかと不思議な気分に迷い込む。(次回に続く)


(写真上:カラフルなジョーギーの舞い。左からニージャ、アクラ、バイラ)
(写真下:自由奔放な踊りと力強い声が魅力的な放浪ジョーギーの女たち、左からアクラ、バイラ。上下とも映像作品『ザ・ラジャスタン~砂漠の表現者たち』より)


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