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Raj_013


 Everyone needs a quest as an excuse for living. Bruce Chatwin
 誰もが生きていく言いわけに放浪を必要とする。 ブルース・チャトウィン


 マンガニヤールと放浪ジョーギー、無謀にも一日にふたつの撮影セッションを行いクタクタに疲れてしまったが、斜陽の帰路のジープではサスペンションの振動に揺られながら心地よい疲労感に浸っていた。連なるブッシュや岩場が流れていく砂漠の風景をぼんやりと眺めていると、ふとイギリスの旅行作家ブルース・チャトウィンのことが頭を過ぎる。サザビーズの鑑定士を辞職後、新聞社のジャーナリストを経て、世界中の秘境を旅する冒険生活に人生を費やし、四十八歳でエイズで世を去った才能溢れる伝説の作家である。

 チャトウィンは生前『パスポートを紛失することは別になんてことはなかったけれど、自分のノートを失くすというのは破滅を意味していた』と、愛用の手帳モレスキンのことを語った。モレスキンと言えばゴッホやマティス、ピカソさらにはヘミングウェイも愛用していた手工業によるフランス製の手帳である(現在はイタリアのModo & Modo社が復刻販売)。
 私のモレスキンは、撮影セッションの記録用として使っている百円ショップの手帳である。撮影機材の入ったリュックから瞬時に取り出すためにも、一回の旅で使い倒すためにも安物の方が都合がよい。そこには楽曲名、メンバー名、ギャランティ、撮影場所、撮影時間、その他出会った人から聞いたどんな小さな情報までも書かれてある。走り書きのため自分で書いた文字が読めないこともあるし、相手に代筆してもらうことも多いので、毎夜ゲストハウスで日記帳に転記することを日課としていた。万が一、紛失をしたときに被害を最小限にするためでもある。
 だが一番大事なモレスキンは撮影済みのテープである。これをもし失くせば、私も破滅を意味する。よい撮影が出来た時はうれしい反面、テープを紛失しないためにさらに神経を尖らせることになる。小心者の旅は身も心もいつもクタクタなのである。

 チャトウィンのように強靱な精神と好奇心で旅が出来たら、彼のように聡明な文章が書けたらと思うことがあるが、どうやら自分にはそんなセンスの欠片さえも持ち合わせていないらしい・・・。でも彼と私とを繋ぎ合わせるひとつの切実なテーマがある。「放浪」だ。旅が終わりやっと日本に戻ってきても、しばらくは腰の座りが悪い日々を過ごす。またすぐにでもどこかに旅立ちたいという衝動に駆られ、そのまま消えてしまっても構わないとすら思う。自分が放浪者に最も近づける瞬間。七〜六万年前にアフリカからホモサピエンスが旅立って以来、人類の奥底には放浪の遺伝子が備わっているといっても過言ではない。そして死ぬまで肉体的にも精神的にも、理想郷を追い求める人生ほど純粋で美しいものはないように思う。

 チャトウィンや砂漠の放浪人のように、旅と日常の境界線が曖昧な領域で生きている人たちは、定住者にはあずかり知れないような人生の極意を習得してしまっているのかもしれない。


(写真:クーリー村にて。ジャイサルメールはラクダの皮製品も特産品だが、手頃な小さな皮手帳は見つからずじまい)


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