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Raj_017


 マンガニヤールとジョーギーの次にボーパを撮ることにした。

 ボーパ Bhopa はグジャール族の一派であり、家々を門付けし喜捨を乞い、招かれて絵解きをして稼ぎを得る伝統的な放浪芸人である。ラージプートの英雄の生涯を色彩豊かに描いた幕(パド)を前に、その由来・縁起について絵解き Pabuji's Scroll をしながらうたい、踊り、かけあう大道の芸能である。幕にはラージプートの英雄神(パブジー Pabuji)の武勇伝が描写してあり、彼らボーパのことを正確に言うと、パブジー・キ・パドという絵解きをする人々のことである。ヒンドゥー教を信仰。ラジャスタン地方のスィーカル、ジュンジュヌー、チュールー、ナーガウル、ジョードプルに多く暮らしている。
 男の方はボーパ、女はボーピーと称する。ラーヴァンハッター Ravanhatta という独特な弓奏楽器を弾き語りしながら踊る。妻は終始顔を布で隠しながら夫との歌とかけ合う。ラーヴァンハッターはココナッツの殻の小さな胴体に太めの竹製のネックを差し、二本の演奏弦(一本は馬の尻尾の毛、もう一本は金属製)と二十本近い金属製の共鳴弦を持っている。馬の尻尾の毛を張った弓の先のほうには数個の小さな鈴がついていて、弓を引くときの手首の返しでシャンシャンとリズムが取れる(参考資料「ジプシーの来た道/市川 捷護(白水社)」※一部を修正引用)。

 ジャイサルメール中心部の東側の商店街のサダール・バザール Sadar Bazar には、店主曰くこの街で唯一の音楽専門店「ヴィッキー・デサート・ドリームス」Vicky Desert Dreams がある。入り口にはカルタールやドーラクなどの民族楽器やインド製のGivson社のギターが展示してあり、店内にはCDや書籍も多少置いてあったような記憶がある。さらに店内には妹尾河童氏の「河童が覗いたインド」でも紹介されていたウダイプール産のミニチュア・テンプルを始めとしたキッチュな土産物も売っている。
 この店の奥の倉庫には結構な数の民族楽器が保管してあり、バパング Bhapang と呼ばれる円筒形のボディから一本の弦が延びている弦楽器の情報収集をしていたところ、偶然にこの倉庫で現物を見せてもらうことが出来た。演奏が難しい楽器らしく、演奏者はカノイ村にはいるが、おそらくジャイサルメールの街中にはいないのではないかとのこと(さらに情報収集を続けたところ、カラカールコロニーに暮らすアラディン・カーン Aladin Khan というマンガニヤールの演奏者の名前まで辿り着いたのだが、時間の都合で結局訪問ができなかった)。バパングは「ジプシーのうたを求めて(ビクター)」「The Dhoad Gypsies(ARC Music)」など、いくつかの市販CD音源でそのコミカルな演奏を聞くことは可能だ。

 ヴィッキー楽器店の店主曰く「ジャイサルメールの街中にはホンモノのミュージシャンはいない。皆ツーリスティックで、金銭目当ての奴ばかり。本物を探すなら村に行く方が良いだろう」と通ぶる。彼の言い分は分からないまでもない。実際にカノイ村や放浪民たちの音楽は素晴らしかった。そして前回の滞在で行った街中での撮影セッションを思い浮かべると、今回の楽士に比べどこか物足りない印象が残ったこともまた事実である。だが「本物」「偽物」は主観的な感性に基づく判断であり、物事の本質とは相容れない。街中のレストランで演奏している楽士の中には、周辺の村からジープで送迎されてくる者たちも多いと聞く。そして前回の滞在に比べて、今回の方が楽士に対して切実な想いで接している分、彼らの素晴らしい側面がやっと自分にも見えてきたという理由も大きいようにも思うのだ。

 このジャイサルメールの街中にも、まだ素晴らしい表現者はいるのではないか。ただ私が気付いていないだけなのではないか。


(写真:ボーパが絵解きに用いるパドの一部。長さ三メートル、高さ一・五メートルほどの幕であり、パブジーの武勇伝が描かれている)

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VICKY DESERT DREAMS
Sadar Bazar, Jaisalmer,
Rajasthan, INDIA 345001


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