上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Raj_020

 ヒルトップから場所を移して、コロニーの中腹にあるジャグディッシュの家に案内された。腰くらいの高さの泥塀から入ると四畳半ほどの庭スペースがあり、隅には炊事場がある。金属製の食器類や鍋は綺麗に磨かれてピカピカだ。塀の外はゴミや小枝や小石が散乱して無法地帯と化しているが、塀の内側の居住スペースはゴミすら落ちていないほど清潔だったことが対照的だった。彼らの浄不浄の境界線を垣間見たようだ。家屋は塀の内側にL字方に二箇所あり、ひとつは四方を牛糞で固めた壁で覆われた茶室ほどの広さの家屋、もうひとつは壁がなく屋根だけのテントのような家屋だった。ここで夫婦と子ども五人の計七人で暮らしているそうだ。
 このカラカール・コロニーはラジャスタン政府が芸人のために供与した場所だそうだが、近年金儲けのために土地の権利を売り払っている芸人もいるという。そんな現状をジャグディッシュにどう思うかを訊いてみると、「確かにそういう奴もいる。だがオレは生まれ育ったこの場所が好きなのだ。ここから望むフォートの眺めは最高だろ?」と涼しい顔で答える。このコロニーは街を見下ろすような小高い丘に位置している。庭から景色を眺めてみると、風よけの石で無造作に固定されたビニール製のみすぼらしい屋根が続くその先には、少し霞みがかったフォートが悠然とそびえ立っている。毎日こんな雄大な風景に接していれば、人生や音楽に対する愛情がより深くなっていくのも分かるような気がした。


Raj_020b

 土壁で覆われた部屋に案内される。薄暗い部屋の中は簡易ベッドと旅用の小さな鞄があるだけで、あとは白熱灯がぶら下がっているだけの簡素な作り。この場所でセッションをすることになった。バート・スターン監督の『真夏の夜のジャズ』におけるチコ・ハミルトンの演奏シーンのように、暗闇に浮かぶ上がるアーティストといった構図が頭に浮かんできた。ジャグディッシュの立ち位置や白熱灯の位置を何度も調節し直して、もう一度「ゴールバンド」でリハーサル撮影を始める。なるほど、彼がいつも演奏しているこの場所の方が、全然良い感じの音で聞こえる。優しく囁きかけるような甘い音色が土壁の部屋一面に充満する。やがてジャグディッシュはだんだんと演奏に溶け込み始め、力強さと優しさと虚無感が同居しているかのような不思議な表情へと変貌してきた。このボーパはやはりただ者ではなかった。二曲目と三曲目は、映像の構図をフェイスアップのみで撮ることにした。楽器演奏が見えることも重要だが、彼の場合は表情を追い続ける方が楽曲にもより説得力が出ると思ったのだ。今回のセッションの撮影が個人的には一番納得が行くものになった。

 セッションが終わって、ジャグディッシュに全曲のプレイバックを見せると、興味深く見入っている。時おり「この画いいね」と誉めてくれたり、ビデオやマイクについていろいろ質問してきたりして、彼は撮られることに関して他の楽士よりも特に意識しているように思えた。
 グループによる演奏よりも今回のようなソロ演奏の方が、被写体と自分との関係性がより表現しやすいので好みである。ワンショットでの表現方法には限界があるし、あまり大人数の楽士の構成だとカメラワークに迷いが生じがちで、撮影が大変困難になる。同じ曲を何度か演奏してもらい、編集でカット繋ぎすればよいという方法もあろうが、楽士のテンションを下げることにもなりかねないので、できるだけワンショットで撮りたいのだ。一曲くらいはアンコールと称してカット割り用に再度同じ曲を演奏してもらうことも考えはするのだが、楽士のことを思えば何度も試したいとは思えない。ワンショットはひとりの人間の視点と同じであるので、作家としての自分の感じているものを伝えやすい。

 ジャグディッシュの魅力は、DVD作品『ザ・ラジャスタン~砂漠の表現者たち』を視聴していただいた方が存分に伝わると思う。彼のセッションを撮ったことで、ラジャスタンの音楽映画を作ることができると確信した。これ以降、万が一思うように撮影が出来なかったとしても、今まで撮った素材だけでも充分にラジャスタン音楽の魅力は伝えることが出来るだろう。そう思うと心がずいぶん軽くなって、だんだんと気持ちに余裕が出てきた。(次回に続く)


(写真上:ジャグディッシュの住まい。浄不浄の境界線がはっきりとしている)
(写真下:甘い音色を放つジャグディッシュ。映像作品『ザ・ラジャスタン~砂漠の表現者たち』より。オリジナルはかなり暗めの幻想的な映像だったが、最終形はカラコレでイメージを明るく変えたものを採用した)

grayline

JAGDISH BHOPA (at Kalakar Colony in Jaisalmer, 08.Mar.17)
01. Gorbandth (Hilltop Session)
02. Gorbandth
03. Chidiya Chug Gayi Khet
04. Lera
※赤文字が今回DVD作品化


| HOME |


Design by mi104c.
Copyright © 2017 spruce & bamboo. All rights reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。