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Raj_031a

 夕方になるとこの屋上にも強い風が吹き付けてきた。マイクにウィンドシールドを装着したり、ローカットスイッチをオンにするが、これほどの強風だと劇的な効果は期待出来ないだろう。独りで作業するのが困難だと思う瞬間。

 セッションはケサリヤ・バーナ Kessariya Bana からスタートした。スーラム・ナート Suram Nath の演奏する小さなシンバルのような打楽器マンジーラがグルーヴィーなビート感を醸し出す。マンジーラは主に寺院での宗教儀式で用いられる。リーダーのカル・ナートでなく、アチャール・ナート Achal Nath が吹奏楽器プーンギーを演奏している。とにかく体が自然に動き出してしまうようなゴキゲンなサウンドだ。ラジャスタンの楽士は、ライブセッションのことを「パーティ」と呼び、自らの楽団名にも「~パーティ」と名付けることも多い。このカルベリアたちのビート感溢れるはじけた演奏を聴いていると、まさにこの乱痴気騒ぎのパーティという言葉がぴったりハマっているなと思わずにはいられない。


Raj_031b

 最初の一曲は何事もなく終えたのだが、以降のセッションには落胆させられた。
 
 ケサリヤ・バーナが終わり、その後二曲演奏してもらったものの、プーンギー奏者のアチャール・ナートに対して、リーダーのカル・ナートが演奏中にダメ出しする。その度に演奏が中断、当然撮影も中断し、私はガイドのニッキールと顔を見合わせて苦笑。同じことが二度、三度続くと撮影に対する集中力がガクンと落ちてしまうし、それは楽士に取っても同じことだろう。酩酊状態のカル・ナートはとにかくやりたい放題。おまけにアチャールに「こんな風に吹けばいいんだよ!」と、人を小馬鹿にしたような居丈高な態度で上下関係を誇示するのにもウンザリしてしまう。まるで練習風景を撮っているようだ(見方によってはそれも面白いのかもしれないが)。たしかにアチャール・ナートの演奏には大人しい印象を受けたのだが、全く聴けないほど酷い演奏でもない。
 やがて痺れを切らせたのか、リーダーのカル・ナートは「オレが吹いてやる」と言わんばかりに、いきなりアチャールからプーンギーを奪って独奏を始めた。リズム隊は慌てて彼の演奏に合わせる。しかし酩酊状態のせいかこの独奏が全く酷いもので、サーキュラー・ブリージング(循環呼吸)すらマトモに出来ていない。先ほどの居間の打ち合わせで初めて観た時と同じようなやんちゃな演奏だ。カル・ナートの出す音の方が太くてブライトだし、酩酊も相まってビジュアル的には面白いのだが、フレーズすらマトモに聴き取れなくて、何をやっているのか分からないこともあった。アチャール・ナートの方が音楽的にはまだマシである。そんなアチャールはカル・ナートの横で寂しそうに体育座りをしている。なんだか滅茶苦茶なセッションになってきた。
 今まで観てきた中で一番酷いセッションではないかと感じた。楽曲が最後まで通してマトモに演奏されないとは・・・。最高のギャラを払っているのに、最低のセッションになるとは全く想定外だった。撮影も集中力が欠けてしまい、ステージに子どもが乱入し始めて、もはやどうでもよくなってきた。このセッションは捨てて「別のカルベリアをどこかで見つけないと・・・」と諦念の境地に陥った。

 諦めと怒りが心頭に達してきたため、側で観ていたガイドのニッキールに「彼らは本当にプロフェッショナルなのか?」と皮肉たっぷりに言ってしまった。するとニッキールも同じように感じていたらしく、さらに彼がコーディネーターのマチュール.JRに告げる。全部で四曲演ったところで、ダンサー二人が退場した。マチュール.JRがメンバーの誰か(おそらくベレー帽の男性)に私たちの不満を告げたのかもしれない。苛つきながらも、次の展開を待つことにした。
 十分ほど経ってダンサーたちは例のカルベリアの黒い衣装で再登場した。ジャイサルメールの少女たちが着ている民族衣装に比べると、装飾が豪華で洗練されている。今までの嫋(たお)やかな彼女たちの存在感とは明らかに違う、どこか重厚感すら伴った緊張した空気が辺り一面を漂い始めた。

 カル・ナートがお決まりの進駐ラッパのような攻撃的なイントロをかき鳴らし始めた。私は少しの期待を抱いてカメラを構える。カルベリアを世界区に押し上げた伝説のカルベリアダンスがいよいよ始まったのだ。(次回に続く)


(写真上:「ケサリヤ・バーナ」を唄う美しいクマーリ・サムダ(左)と、マンジーラでグルーヴィーなリズムを刻むスーラム・ナート(右))
(写真下:威勢良くプーンギーを吹くリーダーのカル・ナート(左)と、彼にたしなめられて寂しそうなアチャール・ナート(右)。上下写真とも映像作品『ザ・ラジャスタン~砂漠の表現者たち』より)


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