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Raj_039a

 ヒジュラについては前回と同様、機会があれば是非会ってみたいと思っていた。ヒジュラ Hijras とは半陰陽者であり、男児の誕生や婚礼の祝いの場において歌や踊りで祝福するシャーマン的な芸能者であり、さらに平たく言うなら性同一性障害の男性、もっと下世話に言うならオカマである。本ブログの過去記事『私説ロマ:ヒジュラとロマ』も併せてご覧頂きたい。
 
 数日前のカルベリアの撮影に向かう途中、コーディネーターのマチュール.JR氏(サンジート・ナタック・アカデミーの館長、マーダン・モーハン・マチュール氏の息子)と会うために、ジョードプル郊外のとある結婚式場で待ち合わせをしていた。ここはガイドのニッキールが数年前に挙式した場所だ。ヒジュラについての話をニッキールに切り出してみると、彼らの結婚式の時にも大勢で押しかけてきて、歌や踊りを披露したという。さらに男児を出産した時も家にやってきたそうだ。ニッキールによれば、結婚式では五千ルピー、男児出産時には五百から千五百ルピーを彼らに支払ったという。

 ジョードプルでのヒジュラのコミュニティが時計台近くの野菜市場の中にあると言うので、取材の合間を縫って探してみることにした。喧噪あふれる昼間の市場の中を彷徨いてみるが、それらしき建物が見あたらない。軒を連ねている商売人や地元の若者たちに訊いてみるが、分からないと言われたり、クスクスと笑われ好奇の目で見られるという始末。「私はストレートだ!」とムキになって反論すると、さらにドッと笑われてしまい、前回の滞在と同じような後味の悪い結果となった。若い年齢層に取ってのヒジュラは奇異なホモセクシャルの存在と見なされているようだが、ニッキールの父親のアルーン氏が「ヒジュラは必要な存在だ」と言っていたように、年配層にはケガレを引き受けてくれる貴重な存在としてまだ受け入れる余地が残されている印象を受けた。デリーやムンバイなどの都市部で売春が生活の基盤となっている彼らだが、このラジャスタン地方ではまだ彼らを神聖視している土壌が残されていると感じた。

 なんだかんだで二日間探し回って、やっと情報を得ることが出来た。ふらふら歩いていた時にふと目に留まった香の専門店で、マックスと名乗る若い店員にたまたま話しかけたところ、目の前の路地の先にヒジュラのコミュニティがあるとの返答。店の中に入り込み、さらに詳しく彼から話を聞くことにした。彼は会話の節々で「You Know !」を連発し、ネイティブのような早口でリズミカルな英語を話すので、本当にインド人なのか?と改めて尋ねてしまうほど、インド人離れしていたのが印象的だった。

 ヒジュラは目前の路地の十数メートル先にある建物の一角で二十名ほどのコミュニティで暮らしているようだが、彼らだけの専用の住居という訳ではなく、普通の人も同じ敷地内に暮らしているそうだ。ヒジュラは日没後に行動することが多く、昼間に集団で見かけることは滅多にないという。だが仕事帰りの午前中には集団でコミュニティに戻る光景にしばし出くわすようで、昼間ですらこの市場のあちこちで単独で歩いていることもあるという。実際に腰が曲がって年老いたヒジュラが市場内を歩いているのを取材中に見たが、ぱっと見はサリーを着ている普通の老婆という印象でしかなかった。マックスが教えてくれなければ気が付かずに通り過ぎてしまうかもしれない。だが高級そうな金銀のアクセサリーをジャラジャラとかき鳴らして歩いている様は、やはり市井の人とは雰囲気を大きく違える。若いヒジュラに出会ったならば、さらにインパクトを感じたことだろう。


Raj_039b

 ニッキールやマックスがガイド役を申し出てくれたにも関わらす、ヒジュラのコミュニティに出向いて撮影したいという気持ちが最後まで起きなかった。今回制作する映像作品とヒジュラがどうにも線で繋がらないこと、おそらく撮影ギャラが最高値になろうこと、旅も終盤を迎えて資金が底をついていたことなどが頭に過ぎり、結局コミュニティに足を踏み入れることはなかった。
 数日前に会った音楽プロデューサーのビシュヌ・チャンドラ・プラージャパティ氏 Vishnu Chandra Prajapati の事務所で見たジョードプル・フェスティバルでのヒジュラのパフォーマンス映像があまり印象に残るものでなかった、というのがおそらく一番の理由なのだろう。不躾な言い方かもしれないが、町内会のオバさんが酔った勢いで踊ったり歌ったりしているという姦(かしま)しい印象しか受けなかったのだ。実際の彼らのパフォーマンスを目前で観るなら、また違った彼らの表現に出会えた可能性も大きいだろうが、そこまでの好奇心が湧かなかったというのが正直なところだ。
 今回の渡印の直前に、「ヒジュラ - インド第三の性(青弓社)」の著者である写真家の石川武志さんから連絡を頂いた。ちょうど同時期にラジャスタンに滞在なさるとのことで、スケジュールが会えば現地でお会いして、ヒジュラについていろいろ教えを乞うことが出来ればとも思ったのだが、お互い流動的な滞在計画だったこともあって結局すれ違いになってしまった。この時にもし石川さんと行動を共にできたら、ヒジュラに対しての先入観はおそらく脆(もろ)くも崩れ去り、新しい世界を垣間見ることができたのかもしれない。でもそんな展開にならなかったのは、私とヒジュラにはまだ縁がなかったからなのかもしれない。


(写真上:時計台近くの野菜市場の一角にある香専門店の店員マックス、リズミカルな米国黒人訛りの英語が印象的だった)
(写真下:香専門店の目前に佇むヒジュラのコミュニティの入口。この先に禁断の世界があったのだが・・・)


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