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 さて『ザ・ラジャスタン』音楽紀行を締めくくるのは、ランガのセッションである。

 ランガはイスラム教スンニ派を信仰し、イスラムをパトロンにその伝統的な芸能を継承する重要な部族である。そもそもランガには「歌の贈り手」という意味があり、サーランギ ・ランガ Srangi Langa (Sarengia Langa) とスルナーイ・ランガ Surunai Langa (Sonia Langa) の二種類のグループが確認される。サーランギ ・ランガは弓奏楽器サーランギ Sarangi を歌の伴奏に用いるグループで、スルナーイ・ランガは歌を歌わず、吹奏楽器のスルナイ Surunai (Sahenai)、サタラ(ダブルフルート)Satara、ムルリ(ジョーギーのプーンギーと同じ)Murli のアンサンブルで演奏するグループである。
 彼らは西暦五~六世紀にアラブ、アフガンから渡来した民であり、現在はバールメール、ジャイサルメール、ジョードプルに近郊に居住する。近年(特に一九八〇年初頭)、世界のメディアが彼らの存在に注目し、テレビ出演や世界各地のインド・フェスティバルなどにも数多く登場している。(参考資料「ジプシーの来た道/市川 捷護(白水社)」※一部を修正引用)

 ジョードプルはランガの本場で、ジャイサルメールのマンガニヤールと双璧を成す存在である。共にムスリムであるが、マンガニヤールがヒンドゥーのパトロンに仕えていたという歴史に対して、ランガはムスリムのためだけに演奏してきた。地元の人はマンガニヤールもランガも同じだという認識のようだったが、上記の理由からランガの方がよりスーフィー的な音楽要素を持っているのではないかと、後にセッションを撮影して感じた。通常ランガは白いターバンを巻いているが、ジャイサルメールやバールメール出身のランガはカラフルなターバンを好む傾向があるという。さらにマンガニヤールが好む暖色系のターバンを巻き「自分たちはマンガニヤールだ」と、状況に応じて臨機応変に演奏するというしたたかなランガもいるそうで、こんなところにもインド的な憎めない愛嬌を感じる。
 
 さてランガのセッションについて語ろう。
 ランガのセッションもカルベリアの時と同じく、マチュール.JR氏(サンジート・ナタック・アカデミーの館長、マーダン・モーハン・マチュール氏の息子)をコーディネーターに迎え、マチュール氏の計らいで自宅を撮影用に開放してくれることとなった。街中から数キロ西側に位置するマヘッシュ・ホテル Mahesh Hotel の近くに彼の自宅はあった。ジャイサルメールからのバスの終点がこの近辺だったので覚えていたのだ。
 風邪気味の重い体を引きずって、午後五時過ぎにニッキールのバイクでマチュール氏の邸宅へ。連なる石造りの平屋の中に彼らの暮らす家があり、特別豪華でも貧しくもない普通の裕福な暮らし向きを想像させる部屋だった。しばらくするとリクシャー二台をチャーターしてランガ集団のハニーフ・カーン・ランガ・パーティ Hanif Khan Langa Party が登場。カラフルで細かなモチーフがあしらわれたターバン、刺繍が施された白地のシャツに、ターバンとコーディネートされたクルタ・テープ、決して華美ではないが高価そうに見えるネックレスやイヤリングなどのアクセサリーを身にまとって、颯爽と家の中に入ってきた。クローバーの刺繍を施した子どもも二人いる。総勢十人。すごい存在感に圧倒された。
 マチュール.JR氏と彼らは懇意のようで、挨拶を楽しく交わして会話を始めた。今までとは全く違った、どことなくヒリヒリとした緊張感が辺りを覆い、私は彼らの和の中に入り込める余地がない。ただ傍らでそっと見つめていることしか出来なかった。マチュール.JRが今回の撮影意図を説明して、吹き抜けになっている二階のステージに移動することにした。


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 まずはギャラの交渉。ガイドのニッキールは「おそらくカルベリアよりも安く済むよ」という。私もそう見積もっていた。というのはゲストハウスに楽士を呼ぶ時の相場は五百ルピーと聞かされていたからだ。これはジョードプルでも、ジャイサルメールでも、そして周辺の村のクーリーでも同じだった。撮影が絡めばこんな安値ではもちろん済まないが、それほど高くなることはないだろうと思っていたからだ。
 予想に反して、マチュール.JRが要求した金額はカルベリアの時とほぼ同じだった。今になって思えば、彼らのクオリティを考えると、これでもかなり良心的な金額だったのだが、マチュール.JRが副業(スパイス輸出業)のスパイスを、私に売りつけるときに市価の二倍もの値段をふかっけてきたことがあったので、彼の金額設定には多少の疑心悪鬼を持っていた。
 少しつっぱねると金額が落ちたが、まだ納得できない。毎回のことだがギャラの交渉には骨が折れる。先方だって言い値で決まるとは思っていないので、かなり強気の金額を言ってくる。こちらは何とか安く済ませたい。だがあまり安値にこだわると、今回のように人数が多いと生活に窮する。だから一人当たり上手い食事が出来るくらいの値段は最低限出したいとは思う。その兼ね合いがなかなか難しい。今までの撮影でも「オレたちだって暮らしていかねばならないんだよ」とギャラの交渉で何度も哀願されたことがある。これがパフォーマンスなのか切実な問題なのかはさておき、良い演奏をすれば良いギャラを払うのは理にかなっていよう。


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 だが今回は相場をマチュール.JRが決めている。彼がブローカーとなって手数料を取った後、ランガたちへの配分はさらに少なくなってしまうのだろう。それを考えると高値で決めたいところだが、それでランガたちが潤うのかどうか分からない。少し考えてみて、マチュール.JR氏を通すのは止めて、ゲストハウスの屋上に別のランガを呼べばもっと安く済むと思い、往復の交通費だけ支払うので今回の撮影をキャンセルさせて欲しいと申し出た。
 そんなやりとりを横で聞いていたランガたちは、「まず演奏を聴いてから決めて欲しい」と言ってヒチキ Hichki を始めた。ヒチキとはしゃっくりの意味である。気持ちはキャンセルするつもりだったので少し苛ついていたのだが、彼らの演奏をしばらく聴いてみると鳥肌が立ってきた。すごい音圧なのである。メンバーひとりひとりの演奏技術も高く、アレンジもタイトにまとまっている。カノイ村のマンガニヤール、クーダバックスも良かったが、彼らともまた表現のベクトルが違う。根底に「重厚さ」を感じた。彼らも演奏に対しての自信とプライドを持っていたのだろう、時間を減らして三十分のセッションにすることでこちらの言い値で落ちついたが、このクオリティでは安すぎるだろうと言う気持ちもあったので、後でチップで上乗せする気持ちもあった。

 この二階の部屋では音場が響き過ぎて音がグルグル回ってしまうので、ステージを屋上に移してもらうことになった。日は殆ど落ちかけているので、暗くなるまでに早くセッションを終えなければならない。少し焦った気持ちでセッティングを始めた。(次回に続く)


(写真上:重厚な存在感を放つランガ集団、ハニーフ・カーン・ランガ・パーティのメンバーたち)
(写真中:ギャラの交渉が上手く行かずキャンセルを考えていた時に、彼らが勝手に始めた屋内リハーサル風景)
(写真下:そしてそのリハーサル演奏を聴いて鳥肌が立ち、数秒で考えを改めた)


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