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roma instruments

(画像:ラジャスタン地方の民族芸能集団が使用している楽器の一部。ジャイサルメールの Desert Culture Center & Museum にて撮影。このミュージアムにはたくさんの楽器が陳列されており、どんな楽器を紹介しようかと迷ったが、スペースの都合上、今回は代表的なものを紹介するに留めた(※1)。他にも蛇つかいのジョーギーの使うビーンもしくはプーンギーと呼ばれる二管の吹奏楽器(※2)など、個性的な楽器は数多くある。【2009.6.23追記】ビーン(プーンギー)は、画像右上にあるムルリと同じものです



 今回はラジャスタン地方の音楽集団の中で、ランガと共にポピュラーであるマンガニヤールの使用楽器について少し触れてみたい。

■ カマイーチャ Kamayacha, Kamaycha
 今となっては演奏者がめっきりと少なくなった、マイルドな揺らぎのある音を出す擦弦楽器。カマンはアラビア語で「狩猟の弓」の意。弓奏楽器は中世ペルシアではカマンチェ、トルコではケメンチェ、アルメニアではキャマンチャ、エジプトではカマンジャと呼ばれ、ロマの西への変遷との関連性を感じさせるが、弓の起源を辿ると九世紀のペルシアに最初の記録があり、弓奏楽器が文明社会に出現したのは八世紀から九世紀であることから、おそらくカマイーチャはペルシアから伝わったものではないだろうか。また中央アジアのトルコ遊牧民族では、中部東部でギジャック、西部でケマンチェと弓奏楽器を呼ぶ。(カマイーチャの演奏映像はブログ過去記事『manganiyar, rajasthan folk』メイキング編(3)をご覧ください)

■ ハルモニウム Harmonium
 イギリスの長い植民地支配の十九世紀に、ハルモニウム(※3)と呼ばれるドイツで発明された手フイゴ式の簡易オルガンが伝わると、ラジャスタン地方の民族音楽にも影響を及ぼした。調性の変更が簡単で、即興演奏にも適応しやすいハルモニウムがカマイーチャに取って変わって使用されるようになった。
 このハルモニウムはリコーダーが並べられたようなパイプオルガンでなく、日本の笙のように吹いても吸っても鳴るリードが箱の中に並べられていて、基準音を取るのに非常に重宝された。インド音楽にかかせないドローン(単音の持続音)もボタンで操作でき、アーラープ(導入部)の演奏の自由度も増して、北インドのヒンドゥスターニ音楽の情感的な即興演奏的な面が、より洗練された形となってラジャスタン民謡にも取り入れられた可能性が大きい(マンガニヤールによるハルモニウムの演奏映像はブログ過去記事『manganiyar, rajasthan folk』メイキング編(4)をご覧ください)

■ ドーラク Dholak
 太鼓はリズムをキープするという感覚で考えられているが、民族音楽では歌も旋律楽器もリズム感がないと表現できない。すなわち太鼓は「律動的バリエーション」を表現するためにあり、しばしば「時間的メロディ」も表現する。ドーラクはまさにそれを体感出来る両面太鼓である。片側の鼓面が若干大きく、内側からコールタールに混ぜ物を加えたり重りを張る。もう片側の鼓面は全くシンプルである。ドーラクは「ドール」の小型という意味で、またドーラクの小型は「ドールキ」という。鼓面にはマサラ(数種の香辛料を配合した食材とは別のもの)と呼ばれる、米の糊やタリマンドの樹液、マンガンなどの金属粉を混ぜた黒いペースト状のものが塗りつけられており(※4)、豊かな倍音を響かせる。
 エジプト南部のナイル川上流のアラブ農民サイーディーの音楽でも両面太鼓は使用されるが、西アジア名のダブルと呼ばず、インド名のドーラ(ドホッラ)と呼び、また大型の花杯型片面太鼓タブラ・バラディも使用する点も興味深い。

■ カルタール Kartal
 フラメンコとの関連性から見ても気になる二枚の笹蒲鉾型の打楽器。ラジャスタン地方では楕円形もしくは長方形の木製の板であるが、北インドでは拍子木にヤモリの顔が彫られ、木枠に小さいシンバルが付いているものもあり、チプリと呼ばれている。また中央アジアにもタシュ・カイラークと呼ばれる笹蒲鉾型の打楽器がある。
 ランガやマンガニヤールがカルタールを両手に掲げて演奏する様は、南スペインのバイラオーラがパリージョスを操る姿と重なり、インドとフラメンコの繋がりを感じさせるものである。
 日本でもカルタールに似たものとして「四つ竹」が挙げられる。四つ竹は、歌舞伎や琉球古典舞踊の花笠、郷土芸能の春駒、各地の民謡等で使用され、井原西鶴の「大鑑」によれば、一六五二年に長崎の一平次という男がはやり歌の拍子に用いたのが初めとされている。また放下僧と呼ばれる漂泊の芸能者や「日本のジプシー」と称されるサンカ(山窩)も門付け芸に四つ竹を使用しており、ラジャスタン地方の放浪芸とも重なって興味深い。

■ 口琴 Jew's harp
 口琴は金属や竹、木、木の皮、骨などで出来た弁を口にくわえて振動させて音を出す一種の体鳴楽器である(これは中国における楽器の区分であり、厳密には区分が難しいとされている)。アニメの「ど根性ガエル」の主題歌や、ザ・フーの「ジョイン・トゥゲザー」で聴くことのできる、あのビョ~ンとした音である。小さくてシンプルな構造だが奥の深い楽器で、製作にも演奏にも高度な技術を要する。
 口琴は世界中に分布していて、特に東アジアで多く使われているが、ジプシー音楽の盛んなハンガリーやルーマニアでも使われていて興味深い(ヨーロッパにはウラル・アルタイル系のフン人が伝えたという説がある)。北インドでの素材は鉄で出来ており、モルチャング morchang と呼ばれ、私が観たマンガニヤールのセッションにおいては、打楽器ドーラクとの合奏はプログラムの前半と後半を繋ぐ楽曲として重要な役割を果たしていた。モルチャングはリズム楽器的な扱いとされているようだが、ソロ楽器としても充分に存在感があり、ジャイサルメールの民族資料館において、目の前でスタッフによるモルチャングの即興演奏を聴かせてもらった時には、倍音成分が多い豊かなその音色とその演奏技術に舌を巻いた。それはまるで北アジアにおける喉歌「ホーミー」を彷彿させるものでもあった。
 口琴のルーツを紀元前のモンゴルとする説もあり、当初はシャーマニズムと深い関わりを持っていたとされている。口琴を奏でることによって口腔に「あの世」に通じる異空間を作り出し、音の持つ波動や竹などの素材の霊力により、場を鎮め、神を呼び寄せ、魔物を浄化する効果をもたらすと考えられていた。インドの伝来当初にシャーマニズムの道具として使われていたかは定かではないが(女性や子どもの楽器および玩具であったという説あり)、たとえばシャーマン的要素の強い原始的なカーリー信仰で使われたとしても肯ける話ではないだろうか。シャーマニズム的な魅力も相まって、小さくて携帯性にも優れていたことから、ロマが口琴を放浪の友として愛用していた姿が目に浮かぶようだ(※5)。


(次回予定『インド音楽理論について少し』/毎週木曜更新)
grayline

※1. 画像中の弓奏楽器サーランギはその魅力的な音色から、しばし美しい女性の歌声に形容される。スィンディー・サーランギ(スィンド族型)、さらに小型のグジャラータン・サーランギ(グジャラート族型)、ジョギー・サーランギ(修行僧型)などの種類を持つ。楽団によってはサーランギ系以外の弓奏楽器サーリンダー(ランガが好んで使用)、サローズを用いたり、ドーハーと呼ばれる武勇伝を歌いながら巡歴するアジメール地方の吟遊詩人チャラン Charan はラワージ(ターン・セン・ラバーブ派の生楽器)、グジャール族はジャンタール(古代ヴィーナの変種)という非常に興味深い撥弦楽器を用いる。
 クルト・ザックス Curt Sachs によると、サーランギは中央アジアの西部から伝わったとされ、原始的なものがコブズとして、キリギス人やダッタン人(タタール人)の間で今日も使われている。

※2. ふくらんだ瓢箪に二本のシングルリードが取り付けられたこの楽器は、他にヒンディー語でトゥーンビー(トゥームリー)、パーングラー、サンスクリット語でティクティリー、タミル語ではマグディとも呼ばれている。鼻から息を吸いながら口の中に貯えた空気で笛を吹き、その空気がなくなる前に肺から息を出し、笛の中に吹くと同時に口の中に貯え、これを間断なく繰り返して常に同じ強さで笛を吹くといったサーキュラー・ブリージング(循環呼吸)を用いる。ローランド・カーク、ソニー・ロリンズ、デューク・エリントン楽団のハリー・カーネイなど、ジャズ・ミュージシャンの管楽器奏者にもよく使われる奏法である。
 南インドでは、蛇つかいは「蛇に好まれるラーガ(プンナガ・ヴァラーリー)」の中からいくつかの音を使うという。プンナガ・ヴァラーリは、上行:Bb, C, Db, Eb, F, G, Ab, Bb / 下降:Bb, Ab, G, F, G, Eb, Db, C の音階を持つ(便宜上 KEY=C にて表記。インド音楽理論については次回記事で触れます)。北インドでは、かん高い音で短い定旋律を鳴らすことが蛇の注意を引き起こすと言うが、蛇には聴覚がないので、蛇は蛇つかいの体の動きに反応しているに過ぎない。
 クルト・ザックス Curt Sachs によると、プーンギーはヨーロッパのフリギア旋法に似ているハヌマトディ旋法を用いる。シングル・リードの楽器はインドより東の国にはまれにしか見られない(たとえば中国雲南省のドアン族のひょうたん笙「ブライ」)から、プーンギーは西方からの影響のものだと考えられている。

※3. ブログ過去記事では「ハーモニウム(英語発音)」と表記していたが、以降はインドで使われている「ハルモニウム(ドイツ語発音)」に変更したい。
 ちなみにこの据え置き型のオルガンは、大きく分けて「吸気式ふいご」と「吐気式ふいご」の二種ある。北アメリカでは吸気式を「リード・オルガン」、吐気式を「ハーモニウム」と呼んで区別してきたが、ヨーロッパ諸国においては、どちらも区別なく一律「ハーモニウム」と呼ぶという習慣の違いがある。
 ヨーロッパ伝搬の楽器であるにも関わらず、今や世界のハルモニウム製造の中心地はコルカタ(元カルカッタ)になっている。

※4. 鼓面に塗られるものとしては、ヒンディー語でスィヤーヒー、タミル語でソールと呼ばれるマサラと同素材の混合物もあるが、これらがマサラと同じものかは未確認である。

※5. 口琴は日本やアジア圏とも密接な関連性があり、さらに深く追求すると面白いテーマなのだが、前回の追伸と同じ理由につき、今回は概要を述べるに留めておきたい。


















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