La creation absurde

Entry 60   Permanent LIN K

ヴィエラ・ビラ:子宮回帰型のロマ・シンガー

Vera Bila

 ロマ・ミュージックと言えば、久々の新譜「仮面舞踏会」をリリースしたルーマニアのタラフ・ドゥ・ハイドゥークス、ピーター・ガブリエルが主催するReal World Recordsレーベルに参加しているエジプトのザ・ミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイル、マケドニアはスコピエ出身のジプシーの女王エスマ・レジェポーヴァ、今夏にも来日したインドのラジャスタンの芸能集団ムサフィール、カンテ・フラメンコ界で最も重要なスペイン南部カディス出身のカマロン・デ・ラ・イスラ、そして南フランスから世界区となったジプシー・キングスなど、有名どころを挙げるだけでも色々出てくるのですが、最近好んでよく聴いているチェコの巨漢シンガー、ヴィエラ・ビラを紹介します。

 ヴィエラ・ビラは1950年代半ばに、チェコのボヘミア地方トキチャニで生まれた生粋のロマです。名前の「ビラ」は白を、バンド名の「カリ」は黒を意味し、黒はロムの肌を、白はガジョ(非ロム)を暗喩する色とされています。ロマ音楽などラジオやテレビの電波に一切乗らないチェコ国内で、1995年発表のデビューアルバム「Roma Pop」は三千枚のセールスを記録しました。無名のロマ・ミュージシャンのセールスとしては驚くべき数字です。そもそもの発端はチェコの人気バンド、ネレーズの女性ヴォーカリスト、スザーナ・ナヴァロヴァがツアー中にヴィエラの噂を聞き、ロマの宴会で演奏する彼女たちの姿を見て以来交流を深め、ネレーズがプロデューサーとなって「Roma Pop」をリリースしたという経緯があったのです。そしてその後フランスのロック系のインディペンデント・レーベルであるラスト・コールが彼女たちのデビューアルバムをリリースするや否や、フランスではチェコ本国以上に大ブレイクし、日本でも二枚のアルバムがリリースされるほど有名になりました。

 ヴィエラは7歳から村の祝祭で歌っていて、その音楽スタイルはロマの純粋な伝承音楽のひとつ、ツィンバロ・ムジカ(ギター、バイオリン、ツィンバルムを使用)でした。このジャンルのバイオリンの名手と呼ばれたカロル・ギーニャが、幼い彼女の音楽の師となったのですが、他の音楽的影響を受けずにストイックに伝統音楽の教育を目論んでいたカロルの考えとは裏腹に、ヴィエラはビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ビージーズなどの西側の音楽により深く傾倒していき、師匠を大いに困らせたようでした。
 デビューアルバム「Roma Pop」では、そんな彼女が培ったポップ感覚が十二分に発揮されており、西側ポップ音楽の流用(たとえばビートルズ「ビコーズ」、レッド・ツェッペリン「天国への階段」など)が至るところに見受けられて面白いです。アルバムを通してツィンバロ・ムジカの要素はあまり盛り込まれておらず、南フランスのカマルグ地方で聴かれるルンバ(交流のある南フランス出身のジプシー・キングスの影響?)やブラジルのボサノヴァの要素が特に強く印象に残ります。

 楽理的には非常にシンプルなのですが、巨漢ヴィエラの太く柔らかい声や、多彩なヴォイシング、どことなく懐かしくて親しみ易いメロディーに包まれていると、まるで母親の子宮の中にいるかのような、浮遊した心地よさすら感じます。そして面白いのはロマの私生活や感情を感じさせる歌詞。たとえば名曲「Miro ROM Hin Ternoro」はラブソングを彷彿させるような切ないメロディですが、実際には『私の夫は若すぎて/いつも他の女たちの尻ばかり追いかけている/お母さんが言った通りだった/あの男と一緒では生活がめちゃくちゃだ』と、奥さんが愚痴をこぼすような内容で面白い(この楽曲は世界のジプシー音楽を集めたコンピレーション盤「World Gypsies Vol.2」のライブ音源が秀逸なので、機会があれば是非とも聴いてみてください)。
 他にも「おまえ、よそ者」「稼ぎが悪い」「腹を立てるな」など、生活感漂う曲名にもグッときます。ロマの生活をポップ音楽に昇華したという意味において、ガジョ(非ロム)に一歩すり寄っている印象すら覚えます。すでに世界区になったジプシー・キングスの名を挙げるまでもなく、ロマが抱えている様々な問題を解決する糸口として「音楽」は重要な要素であることは疑いようがありません。
 分厚いハーモニーに絡むヴィエラの哀愁を帯びたメロディ。悲しみや死をテーマにした重い歌が多いのに、聴き終えた後はなぜか気持ちが軽やかになって、世界がオプティミスティックな拡がりを見せるのはなんとも不思議です。

 デビューアルバム「Roma Pop」は現在廃盤ですが、98年発売の2ndアルバム「Kale Kalore(情熱のカリ)」と共に、インターネットの世界音楽サイト calabashmusic.com でMP3データの試聴とダウンロード販売が可能です(米国発信の本サイトはストリート系世界音楽、中でもアフリカ諸国の音源が豊富です)。日本でのデビューアルバムは「Rovana(泣きたい気持ち)」ですが、全体的にバラード調の曲が多く、ヴィエラの個性が充分に表現されていないように思います。それ以外に2枚の輸入盤「Queen of Romany」「C'est Comme Ca」が入手可能ですが、残念ながらまだ未聴です。
 どのアルバムのジャケットデザイン・コンセプトも彼女の巨漢と花がテーマになっており、非常にインパクトがあるのですが、彼女自身がそのミスマッチ感を楽しんでいるのが伝わってきます。YouTubeでプロモ映像を三本見つけたので、併せて是非ご覧ください。チェコのロマの生活が垣間見られます。


●Vera Bila MP3試聴&購入サイト:Calabash Music, Vera Bila Downloads
●Vera Bila YouTube プロモ映像1:Music Clip "Dzal Pani"(邦題「町に水が流れる」)
●Vera Bila YouTube プロモ映像2:Music Clip "Ma Dza Nikhaj"(邦題「水」)
●Vera Bila YouTube プロモ映像3:Music Clip "E Daj Nasval'i"(邦題「お母さん、あなたなしでは・・・」)

    2007/10/28   世界の路傍音楽     60TB 0   60Com 0  ↑ 

Comment


P.W.   Secret    

Trackback

http://sisyphe.blog90.fc2.com/tb.php/60-d83542d1

こいで みのる

こいで みのる
67年生まれ。映像人、デザイナー。
映像レーベル『spruce & bamboo (スプルース・アンド・バンブー) 』主催。

プロフィール
ホームページ (spruce & bamboo)
お問い合わせ

 

 

 

DVD Now on Sale
スプルース・アンド・バンブー
レーベル第一弾のDVD作品
『ザ・ラジャスタン〜砂漠の表現者たち』です。
詳細および購入はホームページにて。

  こいで書庫 on Amozon.co.jp

 

 


※本ブログの引用のない写真・映像・文章の著作権は全て こいで みのる に帰属します。許可のない無断転載・複製、配布を一切禁じます。