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ミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイル:砂漠のストリート・ミュージック

From Luxor to Isna

 エジプトを代表するアーティスト、ミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイルのCD『From Luxor to Isna』を手に入れたのは、今から18年前のことでした。当時は今のようにインターネットで気楽にCDを試聴、購入できる時代ではなく、殊に世界音楽というジャンルはさほど国内で流通していなかったので、海外に行った時にはここぞとばかり気合いを入れて、音源を大量に買い込むことを繰り返していました。本CDは発売直後にカリフォルニアのタワーレコードで購入した覚えがあります(そういえば、昨年に米国タワーレコードは廃業になりましたね)。
 当時はエジプトの民族音楽という認識で、このミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイルを愛聴していたのですが、後になってトニー・ガトリフ監督の『ラッチョ・ドローム』で、妖艶で華やかなガワーズィーのオリエンタル・ダンサーの元で演奏する彼らを観て、彼らがロマ音楽を語るに重要なアーティストであることを知ったのでした。

 インドからスペインまでのロマの漂泊の道において、中東や北アフリカのアラブ音楽には興味深いものがあります。現在のロマ音楽といえば、スペインのフラメンコ、ルーマニアのラウターリ、バルカンのブラスバンドなどがその代表格として多く取り挙げられますが、個人的な嗜好としてはインドのラジャスタン地方の楽士や中東・エジプトのアラブ音楽に目が向いています。フラメンコ、特にトケ・フラメンコにおける音楽的な影響は、ヨーロッパを辿る本流のルートよりも、北アフリカさらにはブラックアフリカの影響が大なのではないかとも思うのです。

 ミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイル(正式なグループ名はフランス語表記の「Les Musiciens Du Nil」)はルクソールで結成され、千年の歴史を持つアッパーエジプトの伝統曲やジプシーの伝承曲を演奏していました(便宜上、以後「ジプシー」表記はエジプトの放浪民を示し、インド起源のロマと区別します)。
 グループの中心的存在 メトカール・ケナーウィー・メトカール Metqal Qenawi Metqal は、カナック神殿の近くの村 Abu-al-Djud 近隣のジプシーのコミュニティで育ち、彼の歌唱やラバーブ演奏の音楽的才能は小さな頃から評判であり、60年代にはすでに政府の依頼で海外にてエジプト伝統音楽の演奏活動をしていました。メトカールは卓越した才能から「東洋のジミ・ヘンドリックス」と形容されることもあります。もう一人の歌い手、シャマンディー・タウフィーク・メトカール Shamandi Tewfiq Metqal は十世紀中旬に北アフリカを占領したベドウィンの英雄アブ・ゼイド Abu Zeid にルックスが似ていると言われる個性的な詩人です。彼ら吟遊詩人の天にも届くような朗唱は、インドのラジャスタン地方の楽士マンガニヤールと共鳴する魂すら感じさせられます。
 前述の二人とラバーブ奏者のムハンマド・ムラード・メトガーリー Muhammed Murad Mejali は、スーダン起源の音楽的才能に恵まれた有名な Mataqil族の一員でもあります。エジプトにはMataqil族以外にも、ガワーズィーの踊りで有名なNawar族、Masilib族、そしてシリア起源のHalab族などが芸能に秀でたジプシー民族として知られています。

 ミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイルは、1975年にエスニック音楽研究者のアラン・ウェーバー Alain Weber に見出され、彼がマネージャーとなった後、成功への階段を駆け上がることになります。同年にフランスで開催された Chateauvallon Festival にサン・ラやキース・ジャレットなどのジャズ・ミュージシャンと共に参加、またピーター・ガブリエルが中心となって開催されたWOMAD Festival(World of Music and Dance Festival)の1983年のイベントに参加するや否や、彼らは一躍注目を浴び、アラブ音楽を世界区に押し上げ、さらに1991年のイタリアのフィレンツェのジプシー・フェスティバル、1995年のスイスのルーサーンのジプシー・フェスティバルの参加により、ロマ・ミュージックの重要なアーティストとして世界中に名を轟かせるまでに至りました。

 ピーター・ガブリエルが主宰するレーベル、Real World Recordsでは、レーベル作品第一弾であり、マーティン・スコセッシ監督の「最後の誘惑」のサントラ盤でもあるピーターのアルバム『パッション』に参加、そして89年には同レーベルから彼らのアルバム『From Luxor to Isna』が発表されました。その後、96年に同レーベルから『Charcoal Gypsies』、01年にフランスのオコラから『Egypt』、06年にはロング・ディスタンスから『Down By the River』を発表し、今でも息の長い活動を続けています。
 残念なことにアルグール奏者であった Mustafah 'Abd Al' Aziz を筆頭に、何人かの創立メンバーが近年死去してしまったそうですが、現在も新しいメンバーを迎えてエジプト民族音楽の伝統を守り続けているようです。

 ドホラやドゥッフ、タブラなどの片面太鼓、馬毛を弓毛とする二弦の擦弦楽器ラバーブ、円筒形で甲高い独特の音を出す笛ミズマール、アラビアのバグパイプとも揶揄される気鳴楽器アルグールなど、エジプトの民族楽器が織りなすアンサンブルや、現地の生活音を取り入れてストリート感溢れる魅力的なアラビアン・ロマ・ミュージックを展開しています。特にミズマールによるサーキュラーブリージング(循環呼吸法)は見事としか言いようがありません。サイーディー Saiyidi と呼ばれるこの歴史の深いジャンルの音楽に包まれていると、雄大なナイル河を背景にして現地のミュージシャンを撮影してみたいという衝動に駆られてしまいます。



【アルバム・ディスコグラフィ】
・Down By the River(Long Distance, 2006)
・Egypt(Ocora, 2001)
・Charcoal Gypsies(Real World, 1996)
・From Luxor to Isna(Real World, 1989)


【メンバーおよび担当楽器】
・Metqal Qenawi Metqal:Singing & Rebab
・Shamandi Tewfiq Metqal:Epic Singing & Rebab
・Mohamed Murad Medjali:Rebab
・Mustafah 'Abd Al' Aziz:Arghul & Dohola
・Hanafi Mohamed 'Ali:Tablah
・Mohamed Abu Haradji:Mizmar
・Ramadan 'Ata:Mizmar
・Mohamed Isma'il:Mizmar
・Djad Al Rab Mahmud:Tablah Baladi
(メンバーは『From Luxor to Isna』発表時のものです。以後、Yussef Bakash の加入など多少のメンバー移動があります)


【MP3試聴&購入サイト】
● ミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイル MP3試聴&購入サイト:Calabash Music, 『Down by the River』
● ミュージシャンズ・オブ・ザ・ナイル MP3試聴&購入サイト:mp3fiesta.com,『Charcoal Gypsies』

    2007/11/19   世界の路傍音楽     62TB 0   62Com 0  ↑ 

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こいで みのる

こいで みのる
67年生まれ。映像人、デザイナー。
映像レーベル『spruce & bamboo (スプルース・アンド・バンブー) 』主催。

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