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Raj_003

 ダブル・フルートのアルゴザ Algoza (Algoja) は通常竹を素材とするが、モーハンはケール Keher という木を用いる。後で訪れたジョードプルの民族資料館の展示パネルでは、アルゴザの穴の数は五個と表記されていたがモーハンのは九個だった。さらにアルゴザと良く似ていて、ビール族やメグワール族が演奏するサタラ Satara では五個だったり十二個だったりとまちまち。アルゴザとサタラの違いは穴の数にあるのかもしれないが、実際のところは良く分からない。ジョードプルのランガも自分の使うダブルフルートをアルゴザと言ったりサタラと言ったりするので混乱させられた。インド人は細かな違いについて尋ねても「一緒だ」と大ざっぱに答えるのが常なので、相手が知的な学者でもない限り正確な答えを期待できない。アルゴザについて後で調べてみたが、インターネットの情報も玉石混淆だ。
 またサタラのドローン用の笛は(1)トニックを鳴らすもの(2)五度下を鳴らすもの、の二種類があるらしいが、アルゴザに関しては未確認である。ちなみにアルゴザもサタラも縦笛だが、バンスリ Bansuri という六~七穴の横笛もそれらとよく似ている外観で一層ややこしい。
 アルゴザはラジャスタン州(特にトンクとアジメール)、パンジャビ州、マハーラーシュトラ州で使用され、別名をジョディー Jodi (Jori)、ナゴザ Nagoza (Ngoza) とも呼ばれ、サタラもアルゴザと同じ地域(特に砂漠地域)で使用され、グジャラート州のサウラシュトラやパキスタンのシンドではパワ Pawa とも呼ばれている。
 
 フランスのガイドブックにモーハンの工房が紹介されているらしく、彼のアルゴザは欧州観光客の土産として人気があるらしい。もはや世界区のアーティストとなったムサフィールなどのプロフェッショナルな楽士は、さらに鳴りが良いとされるムールサガル村の タガレムブヒール Tagarembheelr のアルゴザを好んで使用するそうだが、後述するようにモーハンのアルゴザもかなり魅力的な音を出していた。モーハンのアルゴザの言い値は六千ルピーから一万ルピーだったが、これはタガレムブヒールの価格設定と同等であることから、おそらく三千ルピーから五千ルピーが妥当でないか、と後でコーディネーターのカマルから聞かされた(【注】これらの価格は当時の調査によるものであり、必ずしも相場を示すものではありません)。

 部屋の一角の棚に大量の出荷待ちのアルゴザが袋詰めで置いてあるのが気になり、週に何本程売れるのかと尋ねてみる。

 「あまり売れない」
 「では一ヶ月では?」
 「売れない。今月は一本も・・・」

 モーハンと息子のハリシャンカールが苦笑いする。いきなりの訪問で最初は些(いささ)か冷ややかな対応だった彼らだが、この笑いを機に互いの緊張が解けた。周りの空気が和んできた頃を見計らい、モーハンがアルゴザを演奏してくれるという。彼が二本のフルートで音を出すや否や、殺風景な部屋が急に生き生きとした空間に変わり始めた。新緑の香りが漂ってきそうな軽やかで艶っぽい音色だ。エラン・ヴィタール Elan Vital(生命の躍動)というフランス語がなぜか頭に浮かぶ。一本は軽快なメロディを奏で、もう一本はサーキュラー・ブリージング(循環呼吸)によるドローン(持続音)を鳴らす。プーンギー(ビーン)Pungi (Been, Bin) など、インドの他の吹奏楽器でもこのサーキュラー・ブリージングが多用されるが、難易度はかなり高い。ローランド・カーク、ソニー・ロリンズ、デューク・エリントン楽団のハリー・カーネイなど、ジャズ・ミュージシャンの管楽器奏者がこぞってこの技術を取得したくなるのも肯ける。

 後で撮影したビデオ映像をプレイバックしてみたら、寄り過ぎて撮ったためにアウト・オブ・フォーカスになっている箇所が目立つ。今回のインドでの初セッションということで緊張してしまったのだ。撮影前にもマイクが全く認識せずに困っていたら、マイクのキャノン端子がカメラ側と繋がっていないことをハリシャンカールに指摘されて赤面したこともあった。かなり気負っていたのだろう。(次回に続く)


(写真:楽器職人モーハンによるアルゴザの演奏には、楚然たる色気を感じた)


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