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 ジャイサルメール中心部の西側、アマルサガル門の近くのバスターミナル周辺にはロハール族のテントが連なっており、ここでモルチャングの製作工程を見学した。彼らの製作本数はモーハンよりも多く、たとえば父親と息子二人で一日にモルチャングを十個、ナイフなら二十本を鋳造するという。
 彼らに放浪民族ガドゥリヤ・ロハール(ガディア・ロハール)族 Gadulia Lohar (Gadia Lohar) について尋ねてみると、やはり同族だと皆口を揃えて言う。以前は定住せずに荷馬車で放浪生活(現在ではルートが決まっている周遊生活)をしていたというロハールも、実際にこのテント集落の中でも何人かいた。ガドゥリヤ(ガディア)とはそもそも「荷馬車」の意味であり、ロハールは「鉄」ないし「銅」の意味である。今でもウダイプール近くのチットールガル(チットール)周辺などを周遊しているガドゥリヤ・ロハール族は、ルーマニアやブルガリア国境近くのトルコ北西部など、今では一部にしか見られなくなった荷馬車で移動する稀少な放浪民である。
 このジャイサルメールにもガドゥリヤ・ロハール族は訪問するのかと尋ねてみると、めったに来ることはないがまれに近郊で数日滞在することはあるという。ジョードプルでも同じことを訊いてみたが、そちらでは近郊にすら来ないようだった。

 ここでガドゥリヤ・ロハール族について少し説明したい。ウダイ・シン Udai Singh が統治していたチットールガルがムガル朝の侵攻によって一五六八年に陥落、土地の人々はフォートを去りアラバリ山脈へと追われることになったが、ウダイ・シンの息子、マハラナ・プラタップ Maharana Pratap が勇敢に戦い続け、父の失われた王国の幾らかを取り戻した。その時の軍隊で勇敢に戦ったのがガドゥリヤ・ロハール族だったのだが、さらなるムガル朝との戦いに結局は敗れてしまい、土地を追われたことから放浪生活を始めることとなった。現在の彼らはチットールガル、ダンガールプール、バーンスワーラーやウダイプールの広範囲で放浪生活をしている。
 ガドゥリヤ・ロハール族がラージプートの末裔であるという名残は、彼らの衣服や装飾品がラージプートのそれと酷似していることからも伺い知れる。男性はジャビー Jhavi もしくはアンガーキー Angarkhi という襟無しのジャケットを着用し、ポティア Potia というドットや花のモチーフでデザインされたカラフルな被り物を被り、女性は大きなモチーフが描かれた、より明るい色のドレスを着用し、ガーグラ Ghagra というスカートを履き、カンチリ Kanchili という腰巻をつけ、ルーグラ Lugra と呼ばれる装飾品を身につけている。
 本ブログの過去記事「私説ロマ:インドの放浪部族」では、ガドゥリヤ・ロハール族がロマ民族のルーツのひとつであるかのようなニュアンスで書いてしまったが、実際に彼らが放浪生活を始めたのは十六世紀半ばからで、ロマ民族がインド北西部から西への流鏑の旅を始めた十世紀から十一世紀前半の時代よりも、かなり後の時代になって西を目指した可能性も否めない。


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 さてテント集落のロハール族に話を戻そう。
 滞在していた三月中旬でさえ午前十時頃はじわじわ暑くなり始める時間帯で、さらにこの工房の一角は鋳造用の火を焚いているため、汗がドボドボと流れるほどの異常な暑さとなり、「熱い」といった方が適当かもしれない。モルチャングの鋳造を頼んだにも関わらず、しばらくはナイフばかり鋳造するので、熱さと相まってこちらもだんだんと苛ついてくる。再度しつこく頼み込んで、やっとモルチャングに取りかかってくれた。
 建築現場で見かけるような直径十ミリほどの細長い鉄の棒を火で熱し、金槌で打ちつけ、鋳造する。この一連の作業を五十回以上繰り返すという。器用に金槌を操り、だんだんとモルチャングが形成されていく様には感動すら覚える。ひとつのモルチャングを製作する所用時間は三十~四十分。撮影中にも打ち付ける火の粉がひっきりなしに体に飛んできて、皮膚に当たると飛び上がるほど熱い。その度に彼らがどっと笑うので、まるでコメディ映画の世界。ビデオカメラが無傷だったのがせめてもの救いだった。


(写真上:モルチャングの初期の製作工程。この単なる鉄の棒がだんだんと美しい形に変わっていく。鉄は熱いうちに打て!)
(写真下:鉄を打つロハール族の男たち。上下とも映像作品『ザ・ラジャスタン~砂漠の表現者たち』の未公開映像より)


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