上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Raj_008

 ギャラの交渉を済ませた後、撮影に入ることになった。村の舞台であるカラカール・マンチ Kalakar Manch は今ではほとんど使用されていないそうなので、クーダバックスが薦める村の近くのスポットに移動することになった。七人のメンバーと私たち三人の合計十人が一台のジープに乗り込む。前座席に二人、後座席に四人、荷台に四人。この箱詰めも実にインド的な乗り方だ。前回も六人のマンガニヤールと自分、そしてドライバーとの合計八名で一台のリクシャーをチャーターして移動したことがある。もちろん楽器も含めて。
 水汲みの壺を頭に載せて歩く女性たちの印象的な光景を見ながらジープで走ること数分、砂漠の中のブッシュ地帯で車を停める。大きな木の麓でセッションしたいとの彼らの申し出があったが、いざセッティングしてみると彼らの顔が日陰になってしまい撮影状況としては良くない。日なたになるように大木から少し前進してもらい、さらに太陽と向き合って撮影することに。四十度を優に超える最高潮の暑さの午後のこの時間帯に、一時間もこの状況で彼らに演奏してもらうのはかなり酷なことであるのだが、ここはなんとか我慢して頑張って欲しい。それとは対照的にカマルとアユーブがジープを木陰に移動して昼寝を始めた。

 クーダバックスは七名編成で、メインボーカルとハルモニウムのクーダバックスをリーダーとして、五名のカルタール奏者と、一名のドーラク奏者から成る。カルタールが五名とは多い気がしたが、ステレオ録音をしてみると昆虫の羽音や蝉しぐれのような乾いた打音がなかなか良い風情を醸し出している。
 今回の撮影ではこちらのリクエスト曲を全て演奏してもらうことにした。事前に楽曲リストを手渡してみたところ、ほぼ全ての楽曲が演奏できるという。流石である。まずは遊行の聖者ラール・シャーバース・カランダルを讃える歌「ダマーダム・マスト・カランダール」Damadam Mast Kalander からスタート。リーダーであるクーダバックスのボーカルは声に張りがあって予想以上に素晴らしい。アユーブが薦めてくれたことだけのことはある。少し籠もり気味な丸みを帯びた土着的な歌声というのが、私のラジャスタン音楽に対するステレオタイプな印象だったのだが、彼の声は鋭角的でありながらも弾力性もあり、活きの良さも感じさせる。抱いていたステレオタイプなラジャスタン音楽像は、これ以降に出会った楽士とのセッションで悉く崩壊していくこととなる。良い意味で裏切られたのだ。ラジャスタン音楽は時代とともに変容している。

 セッションが始まって三十分くらいで、「声が出なくなってきたので水が欲しい」とリーダーのクーダバックスが辛そうに哀願する。こんな炎天下では無理もない。自分用に確保しておいた大サイズのミネラルウォーターが半分以上残っていたので彼らに提供すると、メンバー間で大事そうに廻し飲みを始めた。イスラム圏の人たちのように、インド人もペットボトルには直接口をつけずに水を口に流し込むようにして飲む。ミネラルウォーターのペットボトルを、メンバーが別れ間際まで大切そうに抱えていたのが印象に残った。
 一時間ほどでセッションは終了。素晴らしい演奏に満足したので支払い時に少しチップを上乗せした。炎天下での中腰での撮影で非常に疲れたが、最後までワイワイと賑やかで楽しいセッションだった。古くから伝わる民謡をそのまま受け継いでいる面も多かったが、彼らなりのアレンジを効かしている箇所も多く見られ、時代とともに民謡がモダンな味付けで変容しているようにも思えた。どんな洗練された味付けをするかが、彼らプレイヤーにとっての腕の見せ所でもあるのだろう。
 
 古くはヒンドゥーのパトロンに仕えて生計を立てていたマンガニヤールではあるが、現在の彼らはホテルのレストランでの演奏、砂漠ツアーによるサム砂丘での演奏、その他の観光スポットでの演奏など、観光客からの収入を大きな生活の糧としている。しかしそれだけでは食べていけない者の方が多く、農作業や土木作業などで生活の糧を補わざるを得ないのが現実でもある。
 クーダバックスは音楽のみで生計を立てている希有な楽士たちであり、逆にこれくらいの力量がないと音楽だけで食べていくのが難しいことを思い知らされた。一見優雅に思える砂漠の楽士の生活も、日々のストイックな練習や先代から引き継いでいる音楽的才能如何で、ある程度の世界観や人生観が形成されてしまうように思える。それはカーストという逃れられない縛りの中で予め決まっている人生よりも、狭いコミュニティの中での格差が浮き彫りになり、ある意味では残酷な事なのかもしれない。だが今回の旅で出会った楽士たちは皆とても陽気で、自分たちの演奏で皆に楽しんでもらうことを無上の喜びとしていることが、どんなセッションからでも伝わってきたことだけは救いだった。


(写真:クーダバックスのセッション風景。灼熱の太陽の下で全ての楽曲の演奏が終わった後、フォトセッション用に再演奏。皆かなりバテ気味。お疲れさま)

grayline

KHUDABACKS (at Kanoi Village in Jaisalmer, 08.Mar.13)
01. Damadam Mast Kakander
02. Moomal
03. Dhora Mate Jhopari (Hut in the Desert)
04. Nimbla
05. Hichki
06. Holi Yame Udere Gulal (Holi Song)
07. Mahendi (Henna)
08. [Morchang & Dholak Solo]
09. [Jugalbandi (Khaltar & Dholak) ]
10. Kamli

※赤文字が今回DVD作品化


| HOME |


Design by mi104c.
Copyright © 2017 spruce & bamboo. All rights reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。